メアリの日記







5月25日

ヴィクトル様から日記帳を頂いた。



5月26日

お客様8名



5月27日

お客様2名



5月28日

お客様6名








6月2日

「日記とはその日の出来事だけではなく、自分の思った事、感じた事を書き連ねるものだ」と

ヴィクトル様がおっしゃっていた。

こころなしか、怒っていらっしゃるようにも見えた。

理由は、わからない。



6月3日

私の知らない男性の方と女性の方の2人組が来た。

お客様ではないようなので、お帰りになられるように言おうとした所、ヴィクトル様に制止された。

この方々はヴィクトル様の新しい客なのだそうです。








6月8日

ここの所毎日のようにこの間のお二方がおいでになります。

そして、そのたびによく声をかけられます。

女性の方の方は私の話し方がお気に召さないようです。

いままでそのようなことを指摘される方はいませんでしたが。



6月9日

ヴィクトル様の書斎の整理をしていると、話し方の本を見つけました。

この本のように話せばあの方は納得されるでしょうか。



6月10日

今日、ヴィクトル様は、パラダイムXのカジノでポーカーという物をしておられました。

私は傍らでみておりましたが、対戦している相手は例のお二方だそうです。

ヴィクトル様はお二方に向かって普通に会話なさっていたようですが、

勝負は負けておられるようでした。



6月11日

今日もお二方がおいでになったので、

以前読んだ本にならって、話してみました

が、どうやらこれもお気に召さなかったようです。








6月21日

最近、毎日が充実しているような気がします。

ここの所、毎日あのお二方が来て、そのたびに私とお話して下さいます。

毎回、何気ない日常のお話が殆どですが、それが私には嬉しい。



6月22日

ヴィクトル様に買い物を頼まれました。

丁度その時、あのお二方がおられて、御一緒する事になりました。

普段と何も変わらない、いつもと同じ買い物なのに、

なんだかとても新鮮な印象を受けました。

あのお二方といっしょにおられるととても心が和みます。

他のお客様には無い、心のゆとりというか、優しさというか、暖かさというか、

私にはうまく表現することが出来ませんが、とても心が落ち着くのです。



6月23日

今日もお二方がおいでになりました。

今回はとても高位の合体をなさっていたようです。

あのお二方が初めてここへおいでになった時と比べて、とても逞しくなられたような気がします。

それも、体だけでなく、心も強くなられました。

あのお二方は大変な事に巻き込まれているらしく、私にはその心境は図りかねますが、

それに負けることなく、立ち向かっているものと思います。

それに比べて、私は変わったのでしょうか。

今度お会いした時に聞いてみたいと思います。








7月1日

明日、この街を去る。

ヴィクトル様がそうおっしゃっていました。

もうここで起きていた事件は解決したらしいので、此処にいる意味が無くなったとの事だそうです。

行き先を聞きましたが、まだ決めていない、吾輩の実験を行うのに相応しい所へ場所を変える、と

おっしゃっていました。

正直言って私は戸惑っています。

このまま私はこの地を去ってしまっていいのか。

私はこの地で様々な事を学びました。

そして、その多くはあのお二方に学びました。

最初はガンタイプのCOMPを持ってただ頼りなく此処の扉から入ってきたお二方が、

この短い間で高位の悪魔を率いて、此処の扉から出ていきました。

その間、私も変わったと思います。

いままで感じた事が無かった「気持ち」を私はこの短い間におぼえました。


私、このままこの街に何も言わずに去りたくはありません。

せめて、あのお二方には挨拶を言いたい。

これから、ヴィクトル様にお話してみたいと思います。

「もう少し、ここを去る日を伸ばして欲しい」と……


今なら、私、心から笑えるかもしれません。

本当に心から笑えたら、どういう気持ちになれるのでしょうか、とても楽しみです………。












ヴィクトルは懐中時計を見た。

今日は7月2日。

本来ならば、この街をさる日であったが、2・3日ほど留まることにした。

今は、ここにメアリはいない。おそらくどこかに出掛けたのであろう。

そして、ヴィクトルの手元にはメアリが書き連ねた日記があった。

ヴィクトルはその日記を眺め、満足そうに肯くと、ムラマサに寄越させた特上のワインを口にしたのだった……

<了>